カスタマイズ可能な select 要素
この記事では、ブラウザーの実験的な機能を使用して、完全にカスタマイズした <select> 要素を作成する方法を説明します。これには、選択ボタン、ドロップダウンピッカー、矢印アイコン、現在選択されているオプションのチェックマーク、各 <option> 要素のスタイル設定を完全に制御します。
警告: この記事で紹介する CSS と HTML の機能は、現在ブラウザーの対応が制限されています。詳細は各機能のリファレンスページにあるブラウザーの互換性表をご確認ください。 JavaScript フレームワークによってはこれらの機能をブロックするものがあります。また、サーバーサイドレンダリング (SSR) を有効にしている場合、サーバーとクライアントの不整合を起こすフレームワークもあります。
背景
従来、<select> 要素の外観や操作感をカスタマイズするのは困難でした。なぜなら、これらは OS レベルでスタイル設定されている内部要素を含み、CSS でターゲットにできないためです。これにはドロップダウンピッカーや矢印アイコンなどが含まれます。
以前は、カスタム JavaScript ライブラリーを使う以外の最良の方法は、<select> 要素に appearance の値 none を設定して一部の OS レベルのスタイル設定を除去し、CSS でスタイル設定可能な部分をカスタマイズすることでした。この手法についてはフォームへの高度なスタイル設定で説明しています。
カスタマイズ可能な <select> 要素は、これらの問題に対する解決策を提供します。これにより、HTML と CSS だけで以下のような例を作成でき、対応ブラウザーでは完全にカスタマイズ可能です。これには <select> やドロップダウンピッカーのレイアウト、カラースキーム、アイコン、フォント、トランジション、位置指定、選択アイコンのマーカーなどが含まれます。
さらに、既存の機能の上にプログレッシブエンハンスメントを提供し、非対応ブラウザーでは「クラシック」な選択要素にフォールバックします。
この例の作り方は、以下の節で説明します。
カスタマイズ可能な select 要素を構成する機能
カスタマイズ可能な <select> 要素は、以下の HTML および CSS 機能を使って構築できます。
- 従来の
<select>、<option>、<optgroup>要素。これらは「クラシック」な選択要素と同様に動作しますが、追加のコンテンツタイプが許可されています。 <select>要素内の最初の子として含まれる<button>要素。これは従来の「クラシック」な選択要素では許可されていませんでした。これを含めると、閉じている<select>要素のデフォルトの「ボタン」のレンダリングが置き換えられます。これは一般的に 選択ボタン と呼ばれます(ドロップダウンピッカーを開くために押すボタンです)。メモ: 選択ボタンはデフォルトで inert です。例えば、リンクやボタンなどのインタラクティブな子要素が含まれていても、 1 つのボタンとして扱われ、子要素はフォーカスやクリックができません。
<selectedcontent>要素は、<select>要素の最初の子<button>要素内にオプションで含めることができ、閉じている<select>要素内に現在選択されている値を表示します。 これは、現在選択されている<option>要素の内容を(内部的にcloneNode()を使って)複製したものを含みます。::picker(select)擬似要素は、ピッカー全体の内容をターゲットにします。これには、最初の子<button>以外の<select>要素内のすべての要素が含まれます。appearanceプロパティ値base-selectは、<select>要素と::picker(select)擬似要素を、カスタマイズ可能な select 要素のブラウザー定義のデフォルトスタイルと動作に切り替えます。:open擬似クラスは、ピッカー(::picker(select))が開いているときの選択ボタンをターゲットにします。::picker-icon擬似要素は、選択ボタン内のアイコン(閉じているときの下向き矢印)をターゲットにします。:checked擬似クラスは、現在選択されている<option>要素をターゲットにします。::checkmark擬似要素は、現在選択されている<option>要素内に配置されるチェックマークをターゲットにし、どれが選択されているかを視覚的に示します。
さらに、<select> 要素とそのドロップダウンピッカーには、以下の動作が自動的に割り当てられます。
- ポップオーバー API で指定されているように、呼び出し元/ポップオーバーの関係を持ちます。これにより、
:popover-open擬似クラスを使ってピッカーが開いているときに選択できます。ポップオーバーの動作の詳細は ポップオーバー API の使用 を参照してください。 - 暗黙的なアンカー参照を持ち、CSS アンカー位置指定 を介してピッカーが自動的に
<select>要素に関連付けられます。ブラウザーのデフォルトスタイルは、ピッカーをボタン(アンカー)に対して位置指定し、CSS アンカー位置指定の使用 で説明されているように、この位置をカスタマイズできます。また、ビューポートからはみ出しそうな場合にピッカーを再配置するポジション・トライ・フォールバックも定義されています。詳細は オーバーフローの処理: トライ・フォールバックと条件付き非表示 を参照してください。
メモ:
カスタマイズ可能な <select> のブラウザー対応状況は、<selectedcontent>、::picker(select)、::checkmark など関連機能のリファレンスページの互換性表で確認できます。
上記の機能を実際にどのように使うか、ページ冒頭の例を通して見ていきましょう。
カスタマイズ可能な select 要素のマークアップ
例として、ペットを選択できる一般的な <select> メニューを用意します。マークアップは次の通りです。
<form>
<p>
<label for="pet-select">ペットを選択:</label>
<select id="pet-select">
<button>
<selectedcontent></selectedcontent>
</button>
<option value="">ペットを選択してください</option>
<option value="cat">
<span class="icon" aria-hidden="true">🐱</span
><span class="option-label">猫</span>
</option>
<option value="dog">
<span class="icon" aria-hidden="true">🐶</span
><span class="option-label">犬</span>
</option>
<option value="hamster">
<span class="icon" aria-hidden="true">🐹</span
><span class="option-label">ハムスター</span>
</option>
<option value="chicken">
<span class="icon" aria-hidden="true">🐔</span
><span class="option-label">鶏</span>
</option>
<option value="fish">
<span class="icon" aria-hidden="true">🐟</span
><span class="option-label">魚</span>
</option>
<option value="snake">
<span class="icon" aria-hidden="true">🐍</span
><span class="option-label">蛇</span>
</option>
</select>
</p>
</form>
メモ:
アイコンには aria-hidden="true" 属性が付与されています。これにより、支援技術からアイコンが隠され、"猫 猫"のようにオプション値が二重に読み上げられるのを防ぎます。
この例のマークアップは「クラシック」な <select> のマークアップとほぼ同じですが、以下の違いがあります。
-
<button><selectedcontent></selectedcontent></button>構造が選択要素の<button>を表します。<selectedcontent>要素を追加することで、ブラウザーは現在選択されている<option>の内容をボタン内に複製し、カスタムスタイルを適用 できます。この構造をマークアップに含めない場合、ブラウザーはデフォルトボタン内に選択されているオプションのテキストを表示し、スタイル設定が難しくなります。メモ:
<button>内に任意のコンテンツを含めて、閉じている<select>内に好きなものを表示できますが、これを行う際には注意が必要です。含める内容によって、<select>要素に対して支援技術に公開されるアクセシブルな値が変更される可能性があります。 -
<select>の残りの内容はドロップダウンピッカーを表し、通常はピッカー内の異なる選択肢を表す<option>要素のみです。他のコンテンツも含められますが、推奨されません。 -
従来、
<option>要素にはテキストしか含められませんでしたが、カスタマイズ可能な select 要素では画像や他の対話可能でないテキストレベルのセマンティック要素など、他のマークアップ構造も含められます。::beforeや::after擬似要素も使えますが、これらは送信値には含まれません。例では、各<option>にアイコンとテキストラベルを含む 2 つの<span>要素があり、それぞれ独立してスタイル設定や配置ができます。メモ:
<option>の内容はテキストノードだけでなく多階層の DOM サブツリーも含められるため、現在の<select>の値 を JavaScript で取得する際のルールがあります。選択された<option>のtextContentプロパティ値を取得し、trim()を実行した結果が<select>の値になります。
この設計により、非対応ブラウザーではクラシックな <select> にフォールバックします。<button><selectedcontent></selectedcontent></button> 構造は完全に無視され、非テキストの <option> 内容はテキストノードだけに変換されますが、機能は維持されます。
カスタム選択レンダリングへのオプトイン
カスタム選択の機能と最小限のブラウザーベーススタイル(および OS 提供のスタイル設定の除去)を有効にするには、<select> 要素とそのドロップダウンピッカー(::picker(select) 擬似要素)両方に appearance の値 base-select を設定します。
select,
::picker(select) {
appearance: base-select;
}
<select> 要素だけを新機能にオプトインし、ピッカーはデフォルトの OS スタイルのままにすることもできますが、通常は両方をオプトインするのが望ましいです。ピッカーだけをオプトインすることはできません。
これで、非常にシンプルな <select> のレンダリングになります。
ここから自由にスタイル設定できます。まず、<select> 要素にカスタムの border、background(これらは :hover や :focus で変化します)、padding 及び、背景の変化が滑らかにアニメーションするように transition を設定します。
select {
border: 2px solid #dddddd;
background: #eeeeee;
padding: 10px;
transition: 0.4s;
}
select:hover,
select:focus {
background: #dddddd;
}
ピッカーアイコンのスタイル設定
選択ボタン内のアイコン(閉じているときの下向き矢印)をスタイル設定するには、::picker-icon 擬似要素をターゲットにします。以下のコードは、アイコンにカスタムの color と transition を与え、rotate プロパティの変化を滑らかにアニメーションします。
select::picker-icon {
color: #999999;
transition: 0.4s rotate;
}
次に、::picker-icon と :open 擬似クラスを組み合わせて、ドロップダウンピッカーが開いているときにアイコンの rotate を 180deg にします。
select:open::picker-icon {
rotate: 180deg;
}
ここまでの動作を見てみましょう。ピッカーの矢印が <select> の開閉時に滑らかに 180 度回転します。
ドロップダウンピッカーのスタイル設定
ドロップダウンピッカーは ::picker(select) 擬似要素でターゲットにできます。前述のように、ピッカーには <button> と <selectedcontent> 以外の <select> 要素内のすべてが含まれます。例では、すべての <option> 要素とその中身です。
まず、ピッカーのデフォルトの黒い border を削除します。
::picker(select) {
border: none;
}
次に、<option> 要素をスタイル設定します。フレックスボックス でレイアウトし、すべてをフレックスコンテナーの先頭に揃え、各要素の間に 20px の gap を設けます。各 <option> には <select> と同じ border、background、padding、transition を設定し、統一感を持たせます。
option {
display: flex;
justify-content: flex-start;
gap: 20px;
border: 2px solid #dddddd;
background: #eeeeee;
padding: 10px;
transition: 0.4s;
}
メモ:
カスタマイズ可能な <select> の <option> にはデフォルトで display: flex が設定されていますが、ここでは何が起きているか明確にするためスタイルシートにも記載しています。
次に、:first-of-type、:last-of-type、:not() 擬似クラスを組み合わせて、ピッカーの上端・下端の角に適切な border-radius を設定し、最後以外のすべての <option> から border-bottom を削除して、境界線が二重にならないようにします。
option:first-of-type {
border-radius: 8px 8px 0 0;
}
option:last-of-type {
border-radius: 0 0 8px 8px;
}
option:not(option:last-of-type) {
border-bottom: none;
}
次に、奇数番目の <option> 要素に :nth-of-type(odd) を使って縞模様の background を設定し、フォーカス時やホバー時には異なる background で選択時の視覚的なハイライトを提供します。
option:nth-of-type(odd) {
background: white;
}
option:hover,
option:focus {
background: plum;
}
最後に、<option> 内のアイコン(icon クラス付きの <span>)の font-size を大きくし、text-box プロパティでアイコン絵文字の上下の余白を削除し、テキストラベルとより良く揃うようにします。
option .icon {
font-size: 1.6rem;
text-box: trim-both cap alphabetic;
}
例は次のようにレンダリングされます。
選択ボタン内で選択されている選択肢のコンテンツのスタイル調整
前の節のいくつかの例でペットを選択すると、ペットアイコンによって選択ボタンの高さが増し、ピッカーアイコンの位置も変わり、アイコンとラベルの間に空間がない問題が発生します。
これは、<selectedcontent> 内に含まれるアイコンを非表示にすることで修正できます。この要素は、選択された <option> が選択ボタン内に表示されるときに、そのコンテンツを表すものです。 この例では、display: none で非表示にしています。
selectedcontent .icon {
display: none;
}
これはドロップダウンピッカー内の <option> の中身のスタイル設定には影響しません。
現在選択されているオプションのスタイル設定
ドロップダウンピッカー内で現在選択されている <option> をスタイル設定するには、:checked 擬似クラスを使います。例では、選択された <option> の font-weight を bold にしています。
option:checked {
font-weight: bold;
}
現在選択されているチェックマークのスタイル設定
ピッカーを開いて選択すると、現在選択されている <option> の行頭にチェックマークが表示されます。このチェックマークは ::checkmark 擬似要素でターゲットにできます。例えば、このチェックマークを(display: none などを用いて)非表示にしたいことがあるでしょう 。
また、より面白いこともできます。以前、<option>要素はフレックスボックスを使って水平方向に配置され、フレックスアイテムは行の先頭に揃えられていました。以下のルールでは、チェックマークの order を 0 より大きい値に設定し、auto の margin-left で行末に移動します(alignment と auto のマージン 参照)。
最後に、content プロパティの値を別の絵文字に設定し、表示するアイコンを変更します。
option::checkmark {
order: 1;
margin-left: auto;
content: "☑️";
}
メモ:
::checkmark と ::picker-icon 擬似要素はアクセシビリティツリーに含まれないため、生成された content は支援技術で読み上げられません。新しいアイコンを設定する場合は、視覚的な意味が通じるようにしてください。
ここまでの状態を確認しましょう。以下は最後の 3 節を反映した状態です。
ポップオーバー状態を使ったピッカーのアニメーション
カスタマイズ可能な <select> の選択 button とドロップダウンピッカーは、自動的に ポップオーバー API の使用 で説明されているような呼び出し元/ポップオーバーの関係を持ちます。これにより多くの利点があります。例では、ポップオーバーの非表示・表示状態間のアニメーションにトランジションを利用しています。:popover-open 擬似クラスは表示状態のポップオーバーを表します。
このテクニックはここでは簡単に説明します。詳細はポップオーバーのアニメーションを参照してください。
まず、ピッカーを ::picker(select) で選択し、opacity を 0、transition を all 0.4s allow-discrete に設定します。これにより、ポップオーバーの状態が変化したときにすべてのプロパティがアニメーションします。
::picker(select) {
opacity: 0;
transition: all 0.4s allow-discrete;
}
トランジション対象のプロパティには opacity の他、ブラウザーデフォルトスタイルで設定される 2 つの離散プロパティが含まれます。
display-
ポップオーバーが非表示から表示に変わるとき、
displayの値がnoneからblockに変わります。これもアニメーションする必要があります。 overlay-
ポップオーバーが非表示から表示に変わるとき、
overlayの値がnoneからautoに変わり、トップレイヤーに昇格し、非表示になったときに再び戻って削除されます。これはトランジションが完了するまでトップレイヤーからのポップオーバーの削除が延期され、トランジションが確実に見えるように、アニメーションする必要があります。
メモ:
allow-discrete 値は離散プロパティのアニメーションを有効にするために必要です。
次に、::picker(select):popover-open で表示状態のピッカーを選択し、opacity を 1 にします。これがトランジションの終了状態です。
::picker(select):popover-open {
opacity: 1;
}
最後に、ピッカーが display: none から 可視の display の値に変化している間にトランジションしているため、トランジションの開始状態を @starting-style ブロック内で指定します。
@starting-style {
::picker(select):popover-open {
opacity: 0;
}
}
これらのルールにより、<select> の開閉時にピッカーが滑らかにフェードイン・フェードアウトします。
アンカー位置指定によるピッカーの位置指定
カスタマイズ可能な <select> の選択ボタンとドロップダウンピッカーは暗黙的なアンカー参照を持ち、ピッカーは CSS アンカー位置指定 を介して選択ボタンに自動的に関連付けられます。これにより、anchor-name や position-anchor プロパティによる明示的な関連付けを指定する必要はありません。
また、ブラウザーの既定のスタイルで既定の位置 が提供されており、要素をアンカーから相対的に配置 で説明されているようにカスタマイズできます。
デモでは、ピッカーの位置をアンカーに対して anchor() 関数を使い、top と left プロパティで指定しています。
::picker(select) {
top: calc(anchor(bottom) + 1px);
left: anchor(10%);
}
これにより、ピッカーの上端が選択ボタンの下端から 1 ピクセル下に、左端が選択ボタンの左端から幅の 10% の位置に配置されます。
最終結果
最後の 2 節を反映した <select> の最終状態は次のようにレンダリングされます。
その他のクラシック選択機能のカスタマイズ
以上の節では、カスタマイズ可能な select 要素で利用できる新機能をすべて網羅し、従来の単一行選択要素や、ポップオーバーやアンカー位置指定といった関連する最新の機能に対してどのように作用するかを説明しました。上記で言及されていない <select> 要素の機能がいくつかあります。この節では、それらの機能が現在カスタマイズ可能な select 要素に対する作業状況を説明します。
<select multiple>-
現時点では、カスタマイズ可能な
<select>でmultiple属性が指定された場合の対応はありませんが、将来対応予定です。 <optgroup>-
<optgroup>要素の既定のスタイルは従来の<select>と同じで、太字であり、内部の選択肢よりインデントが浅くなります。<optgroup>要素が全体のデザインに調和するようスタイル設定を行う必要があり、これらは従来のHTMLにおけるコンテナー要素と同様の挙動をすることを覚えておいてください。カスタマイズ可能な<select>要素では、<legend>要素が<optgroup>の子要素として許可されており、ターゲット設定やスタイル設定がしやすいラベルを提供することができます。これは<optgroup>のlabel属性で設定したテキストを置き換えるもので、同じセマンティクスを持ちます。
次の記事
このモジュールの次の記事では、フォームのさまざまな状態をスタイル設定するために現代のブラウザーで利用できる UI 擬似クラス を探ります。